ジャンボ」と呼ばれた人たち

「ジャンボたかお」という名前を聞いたとき、頭に残るのは「たかお」よりも「ジャンボ」のほうではないだろうか。名前は本来、その人を指すための記号にすぎない。ところが頭に「ジャンボ」が付いたとたん、記号は予告に変わる。大きいのだろう、と勝手に想像し、会う前からその人の輪郭を決めてしまう。
この言葉は、もともと日本語ではない。19世紀、アフリカで捕らえられ、ロンドンの動物園を経てアメリカのサーカスで人気を集めた象がいた。名前はジャンボ。その巨体と愛嬌にあやかるように、英語では「jumbo」が「巨大な」という意味で定着していく。一頭の象の名前が、そのままサイズを表す言葉になったわけである。
日本に入ってきたジャンボは、主に大きさを伝える接頭語として使われてきた。年末のジャンボ宝くじ、ボーイング747の愛称だったジャンボジェット、店のショーウィンドウに貼られたジャンボ餃子の文字。町の催しでも、ジャンボ抽選会だのジャンボお化け屋敷だのという看板をよく見かける。どれも「大きい」という一点を、説明せずに伝えるための言葉だ。二十センチ、特大、と書くより、ジャンボの短い響きのほうが速い。
「大きい」「特大」「でかい」——日本語にもサイズを表す言葉はいくつもある。だが、それらはどちらかといえば事務的だ。ジャンボには少しの陽気さが混ざっている。宝くじにしても餃子にしても、この言葉が付くと、どこか楽しくなる。大きさを誇るというより、大きさで場を明るくする響きがある。名前として使われるときも同じで、その言葉は本人を自然と人前に立たせる。
人の名前にこの言葉が付いてきたのも、同じ理由からだろう。ゴルフの尾崎将司は「ジャンボ尾崎」と呼ばれた。桁外れの飛距離が、そのまま愛称になった。プロレスラーのジャンボ鶴田も、本名より先に体の大きさが言葉になった人である。テレビや実況の世界では、愛称は本名より速く広がる。観客は名前の綴りを覚える前に、大きさの印象を覚える。お笑いの世界でも、体つきや芸風の印象をそのまま名前にしてしまう例は少なくない。
あだ名が本名を追い越していくのは、めずらしい話ではない。とくに人前に立つ仕事では、覚えやすさがそのまま入口になる。説明のいらない言葉が一つあれば、あとは本人が埋めていけばいい。だから「ジャンボ」の付いた名前は、名乗った瞬間に仕事の半分を終えている。聞いた側は、その人がどんな場を占めるのかを、会う前に知らされる。
だが、あだ名は贈り物であると同時に、宿題でもある。ジャンボと呼ばれ続ける人は、その大きさに何度も応えなければならない。体つきは年々変わるし、飛距離もいつか落ちる。それでも名前だけは残る。名前のほうが本人より長く生きる、というのは、大きな愛称を引き受けた人に共通する宿題だ。
私たちが人の名前を覚えるとき、記憶しているのは正確な表記ではなく、その名前が放つ印象だったりする。「ジャンボたかお」という言葉が一度で耳に残るのも、そこに大きさの予告が織り込まれているからだろう。名前は短い。けれどその短さの中には、これから本人が埋めていくための余白が用意されている。

Source: HotArticle

Original link: https://www.hotarticle24.com/288og1m8

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