小さなワンプレートに、白いご飯に、できたての野菜炒めに。そこにかけられた一匙のごま油が、料理を一気に輝かせる瞬間がある。シンプルな食材が、深い香りと豊かな風味をまとって、完璧な一品へと変わる。多くの日本の家庭や料理店で、その魔法の一滴を生み出しているのが「かどや製油」だ。
創業は大正13年。静岡県浜松の地で、初代・門谷宗一郎が始めた小さな製油所がそのルーツである。当時は今のように油の種類が豊富ではなかった。しかし、創業者には確かな信念があった。「良い原料で、丁寧に、あくまでも誠実に」。それは、大量生産や効率化が優先される現代においても、同社が一貫して守り続ける哲学であり、製品の根底に流れる「味」そのものである。
かどやの製品で最も知られるのは、やはりごま油だろう。しかし、そのごま油は、単に胡麻を搾っただけのものではない。違いは「焙煎」にある。胡麻の品種、産地、収穫時期を見極め、最適な温度と時間で丁寧に焙煎する。この工程が、あの芳醇で深みのある香りと、甘みすら感じる複雑な風味を引き出す。家庭用の小瓶から業務用の大瓶まで、この品質へのこだわりは変わらない。プロの料理人が「仕事場ではかどやを使う」と口にする理由はここにある。
だが、かどやの世界はごま油だけにとどまらない。菜種油、米油、オリーブオイル、そして近年注目を集める「ガーリックオイル」や「ラー油」など、そのラインナップは多岐にわたる。それぞれに共通するのは、用途に応じた「適材適所」の思想だ。高温調理に向く油、ドレッシングに最適な風味の油、素材の味を引き立てる淡泊な油――。単に「油」としてではなく、「料理の味を決める調味料」として開発されている。パッケージに記載された「天ぷらに」「炒め物に」「和え物に」といった表示は、メーカーからユーザーへの、料理への愛情が込められたアドバイスなのである。
現代の食品業界は、「健康」が最大のキーワードの一つとなっている。かどやもその流れに無関心ではいられない。例えば、抗酸化作用が期待される「ごまセサミン」を豊富に含むゴマ油の特長を伝えたり、余分なものを加えない純粋な原料へのこだわりを強調したりしている。しかし、それは流行に乗じたマーケティングではなく、「良いものを食べることは、身体にも良いはずだ」という創業以来の確信の延長線上にある。ヘルシーブームが去った後も残るのは、結局のところ、確かな「おいしさ」であることを、同社はよく知っている。
スーパーの棚には、国内外の数多くの油が並ぶ。価格競争が激しいこの世界で、かどやの製品は必ずしも最安値ではない。それでも支持が絶えないのはなぜか。それは、一瓶の向こうに、約100年にわたる技術の蓄積と、原料と製法に対する揺るぎない矜持が見えるからだろう。家庭の味の記憶を支え、プロの技を裏方で支える存在。かどや製油が提供しているのは、単なる「食用油」ではなく、日本の食卓を彩る「伝統の味わい」という、かけがえのない価値なのである。
カドヤがつくる、ただの油ではない伝統の味わい
Source: HotArticle
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