ドジャースの見方は、おそらくこうだ。10月の野球では、先発に7回を求める場面はほとんどない。5回を投げ切れれば上出来で、場合によっては4回で降板する。ならば必要なのは「長く投げる能力」よりも「短い時間で相手を封じる能力」になる。
スネルの投球は、その条件に合っている。高めに伸びるフォーシームで空振りを奪い、スライダーとカーブで打者のタイミングを外す。打たれるときは一気に崩れるが、立ち上がれば手がつけられない。彼の奪三振率の高さは、イニング数という評価軸から外れた場所に価値があることを示している。
さらに、登板間隔に余裕を持たせる起用は、故障歴のある投手の負担を減らす。スネルは中4日よりも間隔を空けたほうが力を出しやすいタイプと見られてきた。先発の枚数を厚くし、日程に無理をさせないドジャースの運用とは、噛み合いやすい。
2025年という答え合わせ
加入1年目は、理想どおりには進まなかった。肩の不調で出遅れ、レギュラーシーズンの登板数は限られる。大型契約の1年目としては、物足りない数字が並んだ読者も多いはずだ。
ただ、復帰後の投球内容は安定していた。そしてポストシーズンに入ると、ローテーションの一角として、シーズン中よりも長いイニングを投げる場面が増える。短期決戦で「回の途中で降ろされる投手」というレッテルを、本人が塗り替えていった。ドジャースは連覇を果たし、スネルの契約は結果論としても正当化された格好である。
それでも残る不確かさ
手放しで褒められた話ではない。契約は2029年まで続き、スネルは30代半ばに差し掛かる。肩の履歴がある投手にとって、5年という長さは常にリスクを伴う。ドジャースが多用する繰り延べ払いを含む契約は、球団の資金繰りを柔軟にする一方で、選手側から見れば長期のコミットメントでもある。
そして、スネルが200イニング投手になる可能性は、おそらくこれからも低い。彼はそのために投げるタイプではないし、球団もそれを求めていないふしがある。ファンが「エースなら完投してほしい」と感じる場面と、フロントが思い描く勝利の設計図は、必ずしも一致しない。
スネルという投手は、そのずれを象徴している。奪三振の山を築いても、6回で降りる。批判されながら、契約を勝ち取り、10月に長いイニングを投げて黙らせる。長く投げることと圧倒することは、同じではない。1億8200万ドルは、その二つをどこで折り合わせるかを確かめるための実験費なのだと思う。