秋の夜長を彩る新作群——2024年10月期ドラマが届ける“ちょっと背伸びした”大人の視点

テレビ離れが叫ばれて久しいが、秋の新ドラマだけはまだ指折り数える人が多い。理由は単純——この時期だけは“大人のための視聴リスト”が届くからだ。スーパー戦隊もアイドルバラエティも休んで、子どもを寝かしつけた後の自分だけの時間にぴったりな、ちょっと背伸びした物語が勢揃いする。
今年の顔ぶれを眺めてみると、共通項がふたつある。ひとつは“帰ってきた90年代”。もうひとつは“他人との境界線をどう描くか”。どちらも働き盛りの30〜40代にとって、他人事ではないテーマだ。
たとえばTBS日曜劇場『ブラッシュアップライフ』は、もし10年前にやり直せたら人生は変えられるか——という問いを、もう一度青春を謳歌できるわけではない大人たちに突きつける。主演の波瑠が演じるのは、バツイチで子どもあり、会社では中途半端な立場の女性。そんな彼女が“リセット”を選ぶことで、周囲の人間関係がどれだけ脆いものかを浮き彫りにする。リセット願望は誰にでもあるが、本当に壊れたのは環境なのか、自分なのか。ふとした瞬間に考えこんでしまうドラマだ。
同じく90年代を背景にしながら、まったく別の角度を描くのが、日本テレビ『アイアンナックル』。不良だった父と、スーパー銭湯を継いだ息子の確執を軸に、バブルの余韻とその後の不況が家族にどう影響したかを描く。暴力と情けの間で揺れる父親像は、今の“忖度しない”若者世代から見ると新鮮に映る。こちらは“親の時代”を知らない20代にも、自分のルーツを考えるきっかけをくれる。
フジテレビは、他人との境界線を極端にまで押しつめる『ミラー・ツインズ』で勝負。人格を持ち寄って“最強の自分”を作り出すというSF設定だが、肝は“他人の一部を手に入れる”ことで自分が希薄になっていく怖さだ。テレワークで他人との接触が希薄になった今だからこそ、“自分の殻”を守りきることの虚しさが胸に刺さる。主演の藤原竜也は、役者として“自分の殻を壊す”ことを生業にしてきただけに、説得力が違う。
一方、NHKは王道の“地域ドラマ”に回帰。『静かなるドン』は地方の中小企業を舞台に、父娘の経営権争いを描く。東京一極集中が問われる今、“地方で働く”という選択肢を正面から肯定する物語は、Uターン・Iターンを検討している人間に勇気をくれる。特に印象的なのは、娘が父の跡を継ぐときに直面する“経営者としての孤独”。家族だからこそ、利害がぶつかる瞬間がある——という現実を、優しくも辛く描く。
ここまで書いて気づいたが、今年の10月期は“成長”を描くドラマが少ない。かつてなら“主人公が少しずつ強くなる”というテンプレートが主流だったが、今は違う。すでに大人になってしまった者たちが、どこかで道を踏み外した自分をどう引き受けるか——という問いかけに徹している。それは視聴者側も同じで、もう“応援したい主人公”を求めるより、“自分と重ねられる主人公”を求めているのかもしれない。
深夜帯も見逃せない。Paraviオリジナル『ルームロンダリング』は、部屋の“前住人の記憶”を消す職業をテーマに、他人の人生の断片を覗く快感と背徳を描く。短編集形式で、1話完結の小気味良さと、最終話で繋がる伏線の仕掛けが絶妙だ。こうした短尺コンテンツは、隙間時間にこそ力を発揮する。スマホで通勤中にサクッと観て、帰宅後に家族と“今日あった変な話”のネタにする——そんな使い方が定着している。
総じて言えるのは、2024年10月期は“観終わった後の余韻”を重視したラインナップだ。視聴率を取るための派手さより、ちょっと小難しいテーマを、丁寧に煮詰めて届ける。それが功を奏するかどうかは、視聴者の“大人への後ろ髪”をどれだけ引っ張れるかにかかっている。
秋の夜長、リモコンを握りしめてチャンネルを回すとき、ふと自分の人生と重ねてしまう——そんなドラマたちが、今年もやってきた。

Source: HotArticle

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