最近新入社員の研修現場で、参加者同士がタイピング速度を競い合う光景を見かけた。1分間に120文字を超えるスピードを記録した人が、得意げに「仕事で役立つんですよ」とアピールしているのを見て、少し違和感を覚えた。
そもそもタイピングは、「頭の中の思考を文字に変換する手段」に過ぎない。たとえば顧客への謝罪メールを作成する場面を考えてほしい。まず必要なのは、トラブルの経緯を整理し、相手の怒りを和らげる言葉を選び、具体的な改善策をまとめる思考の作業だ。この部分に全体の9割の時間を使い、実際に文字を打つ時間は1割にも満たないことがほとんどだ。
仮に1分間に200文字のスピードでタイピングできても、メールの内容を考えるのに30分かかる人と、タイピング速度は80文字程度でも5分で内容をまとめられる人なら、後者の方がはるかに仕事の効率が高い。私の所属する編集部でも、タイピングが速い新人Aは毎回原稿の提出速度が一番早かったが、誤字脱字が多く論理の飛躍も目立つため、編集者が修正に1時間以上かかることが常だった。一方タイピングは遅くても、提出前に自分で3回読み直し、論点を整理してから提出する新人Bの方が、最終的な作業全体の時間は短く済んでいた。
近年は音声入力ツールやAIの文字起こし機能も普及し、「文字を打つスピード」そのものの価値はどんどん低下している。それでも多くの人が「タイピングが速い=仕事ができる」と勘違いし、高額な練習ソフトを購入したり、毎日1時間以上練習時間を割いたりしている。もちろん、自分の思考のスピードに合わせてストレスなく文字を打てるに越したことはないが、必要以上に速度を追求するのは時間の無駄だ。その時間をビジネス文書の書き方を学んだり、業務知識を深めたりする方が、よほど仕事の成果に直結する。
チャットツールでのコミュニケーションでは、多少タイピングが速い方がスムーズに進む場面も確かにある。だがそれも「速ければ良い」というわけではなく、誤字がなく相手に伝わりやすい言葉を選ぶ方がずっと重要だ。
タイピングはあくまで道具の使い方の一つに過ぎない。道具を多少上手に使えるようになるより、「何を打つのか」の中身を磨く方が、長い目で見れば確実に自分の強みになる。
タイピング速度至上主義は、もう時代遅れだ
Source: HotArticle
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