野球中継の解説で、ついつい「今日はヒットが出ないね」とバットを気にしてしまう。でも、試合の流れを静かにコントロールしているのは、マスクを被ったその人かもしれない。阪神タイガースの坂本誠志郎は、派手な得点やホームランでスポットライトを浴びるタイプではない。それでも、チームが勝つために欠かせない歯車であることに、ファンの間で異論は少なくなってきた。
坂本のプレーで目を引くのは、何よりその守備の確実さと強肩だ。盗塁を刺す瞬間の送球は、まるで計ったようにお腹の高さでミットに収まる。数字で言えば盗塁阻止率の高さに表れるが、映像で見る彼の構えやブロックの仕方は、単なる統計以上の「安心感」を投手に与えている。
多くのスポーツでそうだが、野球ほど「目に見えない貢献」が評価されにくい時代があった。打率や本塁打数ばかりが脚光を浴び、捕手の配球や守備範囲は「空気」のように扱われることもあった。しかし、近年の野球ではデータ分析が進み、守備指標が重視されるようになった。結果として、坂本のような「守備のスペシャリスト」の価値が言語化されやすくなったのは面白い変化だ。
とはいえ、彼自身がデータを気にしているようには見えない。創価大学からプロ入りし、長年阪神の捕手層を支えてきた彼の姿勢は、どちらかといえば「目の前の投手をどう抑えるか」に集中しているように映る。梅野隆太郎や原口文仁といったライバルがいる中で、自らの役割を静かに全うしてきた。
2023年、阪神が1985年以来となる日本一になったシーズン、捕手陣の厚みはチームの強みの一つだった。坂本もその一人として、矢野燿大監督(当時)の構想の中で重要なピースだった。打順の隙を守備でカバーする。そのプロフェッショナルな割り切りが、チーム全体のバランスを整えた。
一般の読者にとって、坂本誠志郎という選手を通じて見えるのは「自分の役割を極める」という仕事の姿勢かもしれない。会社でも、家庭でも、誰かが前に出る分には裏で支える人がいる。彼のプレーからは、脚光を浴びなくとも質を落とさない矜持を感じ取れる。
次に阪神の試合を観るとき、坂本誠志郎がマスクを被っている回があれば、ぜひその守備位置での動きだけを追ってみてほしい。声の届かない距離から投手を導く仕草に、プロの仕事が凝縮されている。
ヒットの数以上にチームを支える。坂本誠志郎という捕手の価値
Source: HotArticle
Original link: https://www.hotarticle24.com/5w7o0tpw